黒星病の防除

生命維持に欠かすことのできない葉を失う病気であること、これが黒星病の怖さです。

 

古くからバラは難しいと語られ続けている最大の原因が黒星病です。特に四季咲き性原種、庚申バラが黒星病に対しての抵抗力を持ち得なかった事が大きく災いしています。他の系統にも程度の差はありますが黒星病はあまねく宿命としてバラの身に降り注ぎます。

黒星病の防除

黒星病の症状

黒星病に犯された葉は表面に不規則な黒斑を生じます。感染を症状として肉眼で確認できるのがこの段階からです。しかしこの時点で黒星病症状の進行過程としては最終段階に近く、治療は不可能とされています。やがて葉は黄変し落葉します。

 

枝の伸びにくい四季咲きバラが葉を失う病気に感染すると深刻な成育障害を受けます。しかも黒星病にたいして有効な治療薬は現在ありません。従って生育期間中は予防薬を定期的に散布し感染予防に努める事、これが現在では最も有効な防除方法であると考えられます。バラの薬剤散布の基本は予防に徹する事であり、その主要因が黒星病であると極論できます。

発症のメカニズム

植物の葉の表面にはワックスの様な薄い保護膜があります。特に新梢の若葉に顕著に見られます。降雨の後バラの若葉が水を弾く様に見えるのはこの皮膜の存在によるためです。しかしこの保護膜は葉齢が進むにつれ剥がれ落ち、葉の表面から失われるようになります。

 

若葉から充実した盛んに光合成を行う働き盛りの葉に達すると葉の表面は保護皮膜が落ちた状態で有ることが多いのです。保護皮膜の失われる主原因は降雨で、雨が葉の表面から皮膜を徐々に落としてゆくのです。

葉表面からの感染

葉の表面の皮膜(保護膜)が失われた部分からは黒星病の菌の進入がおこり易くなります。黒星病は葉裏からだけではなく葉の表面からも侵入するのです。この事が判ったのは木村和義先生の著書「作物にとって雨とは何か」により徐々に明らかになってきました。

 

温室やビニールハウス内など、雨水の当たらない場所でのバラの営利切花栽培で黒星病の感染例が少な事が知られていますが、これは保護膜が雨により失われ葉の表面からも黒星病の侵入が起こり得ることを証明しています。

葉裏からの感染

気孔の集中する葉裏からも菌の進入はおこります。降雨による土からの跳ね返りにより黒星病の菌が葉裏に付着し、感染が引き起こされます。

 

長く黒星病防除の基本はマルチングであるとされています。敷きワラを施し跳ね上がりを防止するのは、葉裏の気孔などからの菌の進入を防ぐ事を目的としています。黒星病の菌は土中に潜みます。土中のバラの葉片などに付着越冬すると考えられています。これが降雨時に土から飛散し直上の葉裏に付着し感染が起こるとされます。

薬剤散布による防除

治療薬の使い方

黒星病に感染した葉の治療薬として効果を現す薬剤は現在有りません。一応の治療薬としてサプロール乳剤とラリー乳剤があります。しかし肉眼で症状の確認ができる葉に対しての治療効果は無く、発病した葉の周囲にある健全に見えるが感染の疑いが持たれる葉に対しての治療薬で有ると断言できます。あくまで初期症状の葉に対しての治療薬であります。

 

感染初期は肉眼で確認できませんから、治療薬であっても使い方、タイミングが難しいと思います。黒星病は降雨によって感染が引き起こされる。であれば降雨の前に予防薬の散布を施すのが最も効果的な防除方法となります。そうは言っても突然の降雨や予定もあるし、散布が降雨後になることがあります。

 

降雨前よりは黒星病の感染の危険度が高いと判断できますので、降雨後は散布液に予防薬に黒星病治療薬を追加しておくのも良い方法です。予防薬の使い方多くの場合、黒星病対策は予防薬の定期的な散布を基本として行います。健全な状態の葉に保護目的で予防薬の散布を行います。発病が確認されないと、多少の後ろめたさを禁じ得ませんが、発病した葉に対しての治療が無い事、葉を失う病気であることを考えれば予防薬の散布を定期的に確実に実施する事が最も効果的で且つ薬剤散布の総量を減らす事につながります。

薬の種類

予防薬

フルピカ、ダコニール、マネージ、バイコラール、サルバトーレ、オーソサイド等が主な予防薬です。病耐性菌の発生を防ぐため、使用回数を守り、同一の薬剤の連続散布を控える様にします。フルピカは現時点の最新薬で高い予防効果を持つ最も信頼置ける薬です。全生育期間中使用可能です。新薬のため高価です。

 

ダコニールは高い効果があり春秋の冷涼な季節には黒星病予防の主力です。マネージも予防効果に優れ全期間使用可能で、特に夏場に主力となる薬です。バイコラールは総合薬で黒星病にも予防効果を持ちます。少雨の夏には効果的です。

 

サルバトーレはうどんこ病薬ですが黒星病にも効果があり、少雨時期に使います。オーソサイドは黒星病の予防薬として古くから珍重されましたが、新薬と比べると効果はやや劣る感じです。少雨時期に使います。

治療薬

サプロールは治療薬として定評がありますが発病葉には無力で初期治療薬として認識します。

ラリーは治療薬としての最新薬で、効果が高く初期治療薬として優れています。

展着剤を適切に使う

黒星病は葉の表面にあるワックス層が降雨により失われることが発病の一因とも考えられます。このため、黒星病の予防薬散布時には、葉の表面から失われた皮膜を人為的に補う様な考え方が最も効果的な防除方法と考えられます。

 

機能性展着剤と総称される展着剤が市販されております。このなかでも皮膜を作る作用を持つ展着剤があります。一般に植物性ワックスと総称されますが、この効果を持つ展着剤を予防薬に混ぜ散布すると高い予防効果、相乗効果を得ることが出来ます。失われた皮膜を人為的に作り菌の侵入を防ぐのです。

機能性展着剤の種類

アビオン E の主成分はパラフィンです。ワックス層を失った葉に皮膜を作りますが、新芽に付着する能力は低く他の展着剤と併用すると効果的です。

 

スカッシュの主成分はソルビタン脂肪酸エステルでパンやアイスクリームにも使われる身近な素材、皮膜を作る能力が高く新芽にも付着します。

 

ニーズは最新の展着剤で、陽イオン界面活性剤です。物質の表面はマイナスに帯電しているため皮膜形成と固着性能力に期待されます。黒星病、うどんこ病薬と併用します。

 

上記 3 種の展着剤が皮膜を作る効果に優れています。症状や状況に応じた予防薬と展着剤との組み合わせを行います。何れも植物性ワックスと呼ばれる展着剤で上手に予防薬と組み合わせることで黒星予防に大きな成果を上げることが可能です。

他の機能性展着剤

KK ステッカーは固着性を持つ展着剤、雨による薬剤の流亡を防ぐ効果があります。

アプローチは浸透移行性を持つ展着剤です。薬剤の粒子を細かくして汚れも防ぎ、治療薬と組み合わせると効果的です。

散布時期と散布方法

降雨によって黒星病に感染するリスクが高まりますので、散布は降雨の前後が最も効果的です。降雨前で有れば予防的散布。降雨の後であれば感染の疑いも考えられますので、予防薬に治療薬を加え散布する方法も考えられます。治療薬を予防的散布に用いるのは本来の姿ではありませんが、初期段階で疑いの芽をつんでしまえば安全であるとも言えます。

 

季節的要因も発病に大きく関わってきます。梅雨や秋雨は無論、昼夜の気温差による夜露も黒星病の原因になります。秋口に黒星病の多発を見るのはほとんど夜露で葉が濡れた為に起こります。また、台風時には強い風に乗って黒星病の菌が広範囲に飛散します。高く伸びたつるバラのシュート上部の葉から黒星病の感染発病を見るのはこの強風に起因すると考えられます。風通しの良い場所にバラを植えないと病気になるが定説ですが、私見ですが実は風当たりの良い場所ほど黒星病の感染頻度が高いと思うのです。


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