つるバラの庭雑考 - クライミングローズの誘引
2011 年 3 月 4 日公開
つるバラの枝は春から秋にかけて成長を遂げます。成長してくれたんだから次は我々の出番。美しく成長した可愛い娘(つるバラ)に花祭りの為の衣装を纏わせてあげなくてはなりません。
樹形図を元に来春の開花を得る為の誘引法則を探ります。法則とは少々おおげさで、また法則に縛られては発想の泉を失うとの懸念もあります。この場合特に自立するクライミングローズに於いてより積極的な誘引手法が求められます。これを考えてみましょう。
自立する姿を持つ品種は枝を倒し頂芽優勢を崩す事が良好な開花状況をうる為に必要であると言われています。また自立する品種の多くが枝の運動を行っています。運動とは、枝を外側へ傾斜させること。この運動により株中心上部分に空間を造り新たな枝を発生させ、大きな姿を持つ株へと成長するその原動力と言うべき基本が枝の傾斜運動であります。
つるバラの枝が運動することに関しては 2010 年秋カタログに図解を含めた解説を掲載しましたので、興味の在る方は購入をお勧めします。このつるバラの枝が主幹になるのですが、この運動が実に興味深くまたつるバラを理解する上に於いて参考になります。家のつるバラにベイサルシュートが出なくて困っているなどという戯言(失礼)は消し飛びます。是非にも御一読を。
クライミングローズの多くは枝が固く充実して上に向かって、光を求めて自立する様に伸びます。生育期間中はこの状態を維持し冬の休眠期を迎えます。冬は寒さに耐えるため枝が最も固く充実した状態になります。葉も徐々に落ち枝が空中に立った状態で越冬します。平地では 2 月下旬頃から気温の上昇が顕著となりこれにつれ枝の芽も活動を始めます。
地温は 2 月半ばを過ぎて上昇傾向となり、根の活動も比例して活発化します。養分の流れが活発化します。養分は枝の中を上昇し終点位置に在る芽を押し出す様にして春の萌芽時期を迎えます。終点位置とは枝先の事です。
冬の休眠期と春の養分流量の多い時期では枝の充実度合が異なります。冬は固く締まった充実している状態。春からは養分の流れが活発化すると共に枝に柔軟性が見られる様になります。そして枝先に起こった新芽の伸長等に影響され枝先に加わる重量が多くなります。この枝先の荷重により枝は徐々に外へと傾斜が加わる様になる。
枝の湾曲運動で起こる傾斜によって得られるのは新たな枝の伸長です。開花量は既に新芽が伸びた時点で決定されていますので、傾斜による花付きへの貢献は無く、新たな枝が出るのみであります。少輪系の品種でしたら、また枝先の湾曲しやすいタイプの品種(野バラやつる サマー スノー)では自然樹形を基本に手入れをせずに結果が得られるのですが、大輪種の場合は枝先に少量の開花が起こるのみで結果としては甚だ都合悪いのです。
従って春先に起こる枝の湾曲運動を冬に人為的に行なうことにより、より良い開花量と適切な新芽の萌芽を促し、翌年の花を咲かせる枝を誘発する。これがクライミングローズに於ける冬剪定と誘引の理論であります。
花を咲かせる枝、開花の起こる枝は新しく伸びた枝です。葉が付いている枝。葉が既に落ちてしまった場合かなり見分けが付きにくい事もあります。剪定の跡などが判断材料になります。鉢栽培などで不幸にも新規の枝の伸長が少なかった場合。この時は今年伸びた細い枝の付け根部分を僅かに残す様な剪定をします。付け根部分に残る不定芽に開花の望みを託しましょう。新たな枝が無いからとバシバシ剪定するのは NG。
枝の倒し方
古く老木の姿になると切除対象と昨今は言われている。んですね。プロの立場から発言すれば、そんなアホなことおまへんで(関西弁指導 M 氏 )。とにかく古木は枝上部に幾つかの新たに伸びた枝を持っています。つまり開花の起こる枝の終点を複数以上存在する事になります。クライミングローズの様に上に向けて強く伸びるタイプの枝は開花が枝先により多く起こり、誘引した枝に花が並んで咲く事は計算出来無い特徴を持ちます。(苦しい言い方でスミマセン。つまり例外も幾つかある)。
多くの場合開花は枝の終点に起こるのです。だからつるバラの剪定は誘引の終えた後に行うのです。クライミングローズの誘引に於いて真っ先に古木を誘引するのがプロの常識(おそらくは)です。理由は短いけど新たに開花する枝が多くあり誘引を行えば確実に開花が得られること。枝先が複数以上あり、開花演出がし易い状況が在ること。古木を労りつるバラへの愛情を表現出来ること。それは取りも直さず自分の感情、人への配慮や愛情、寛容さや優しさを表現してくれると想うからです。
古木の持つ雰囲気が幾多の甘酸辛苦を経た人生の先達の様にも感じるのです。また古木は庭の景色に無くてはならぬ貴重な存在であるのです。つるバラでは景色の中心であり庭の中心、景色の拠り所であるのです。これを一概の元に切除するなど、植物に対しての礼を逸する行為とおもいます。どんなものにも終焉はありますが、そこに美を見出し最期まで付き合うのが庭人。
ベイサルシュートは多くの場合枝先は一箇所ですね。計算できるのは枝先だけ、養分の集中を見れば確かに豊満な開花状況が得られるのではありますが、はて、演出という観点からベイサルシュートを見ると、明らかに古木に軍配が上がる様に感じます。年数を経た枝ほどの持つ表情が景色となり、味わい深い趣を醸しだす得難い対象であります。
この使いこなしを出来無いなんて言わせません。庭が好きな人なら絶対できます。ベイサルシュートの若々しい豊満な開花状況と年期の入った枝の古色悠然たる表情。変化に富むこの組合せがつるバラの庭を一層面白くする真髄であり核心でもあります。
観念論ばかりで肝心の枝の倒し方を説明しなく、失礼。クライミングローズの枝の特徴は上に向かって枝が自立すること。花付きを良くするには頂芽優勢を崩すこと。頂芽優勢とは自立した枝の場合、養分は枝先にのみ集中し開花は枝先の数芽に起こる。これでは味気ないので枝を倒し頂芽優勢を崩す。崩すと開花量が増す特徴を持っています。
倒すと言っても個別の品種的特徴も考慮しなくてはならず、これも一概のもとに片付ける事は難儀です。多くの場合は枝に弧を描かせ枝先を下垂させる方法と、枝を付け根付近から水平に倒す方法とがあります。
枝に弧を描かせるのは、枝先の下垂により枝先から新たな強い枝の発生を抑制し、枝の作った弧の頂点付近から枝元の間で新たな枝の伸長を促す誘引方法です。弧の頂点付近から枝先にかけては開花が起こります。
クライミングローズの枝先に新芽が伸びその荷重により枝先が倒れ新たな枝の発生を促すのであれば、人為的にこの姿をより積極性を持って描きより良い状況を得るのが出来ると言うのがこの方法です。
アーチに誘引したクライミングローズ。この春から初夏の開花状況と枝の伸び方はご存知ですよね。あれを作って咲かし新しい枝を出させ、世代交代とコンパクトな樹形、姿を造るのがこの誘引方法。切り花業者が花を得る為に四季咲きバラに施す誘引手法、これをアーチングと呼ぶのですが、この考え方に近い枝の誘引方法です。
この誘引方法では壁面とトレリス等の平面に適しています。ベイサルシュートもこの誘引方法で大きく弧を描かせ、枝に大きく負荷をかけることによりサイドシュートをより株元に近い位置に発生させコンパクトな樹形を得る為の方法です。