四季咲きバラの剪定理論

四季咲きバラの剪定理論

四季咲きバラの古い品種、古花銘花を楽しむため正しい剪定理論を身に付けることが大切です。ここでは四季咲きバラの剪定について解説します。

バラの剪定は三種類

四季咲きバラの剪定の種類は 3 種類です。

 

まず 12 月 ~ 2 月の間に行う冬剪定、9 月 1 日頃に行う夏剪定、そして盛りを過ぎた花を取り除く凋花切です。この三種の剪定で成長と開花のコントロールをしています。冬剪定と夏剪定は春と秋に開花を得るための剪定です。凋花切は夏におこなう花ガラ切の事で、次の花を咲かせる事が目的ではなく枝を伸ばすための剪定です。結果として開花が起こるのです。

冬剪定

冬剪定は一年の枝の成長の基点を形作る重要な意味を持ち、枝を伸ばす方向を決定させる要素を強く持っています。このため四季咲きバラの冬剪定はバラ管理の出発点と言い得るほど重要な意味を持ちます。後の夏剪定も凋花切も全てがこの冬剪定を施すことの上に成り立っています。

成長のコントロールとは

冬剪定による枝の切り戻しは前年新たに伸びた枝を三分の一程度の長さにまで切り詰め、早春から始まる枝の成長起点を作る作業です。四季咲きバラの特徴のひとつに剪定によって株の高さや大きさをコントールできることがあります。つるバラと異なり誘引作業が有りませんので、冬剪定を施す場所が早春から芽の伸び出す出発点となるのです。

 

剪定を施すバラの枝には剪定を施した跡が付きます。そのため一番花の咲いた枝を一段目。その上の枝は二段目、三段目と言い表します。三段目の枝は三番花の咲いた枝、もしくは夏剪定の後秋の開花が起こった枝です。

 

冬剪定は 12 月から 2 月末の間に行います。冬剪定は前回の冬剪定跡から伸びた一段目の枝で切るのが一応の目安です。前回の冬剪定を行った跡を確認し、そこから出ている枝の付け根から数芽上の外芽を選び剪定します。つまり前回の冬剪定の後、春の一番花が咲いた枝を今回の冬剪定で使います。

 

剪定を施した枝から伸長する新梢は、剪定を施した母枝以上に太くなることは一般的には無く、そのため冬剪定は極力太い枝を選んで剪定を施します。この方がその後の生育や開花にとって有利であるからです。

 

枝先より株元に近いほど枝は太くなるので株元に向かって強い剪定を施す事が多くなります。しかし剪定を施すことはバラの蓄えた養分を奪い取る事でも有ります。非常に悩ましい問題ではありますが、過度の剪定は株の衰弱につながる恐れがあります。

 

枝の柔らかな品種は充実し難い品種です。この様なタイプの品種に強剪定を施すと生育不良を起こす傾向にあります。過度の剪定は株の衰弱につながると書きましたが、枝は太いが柔らかで充実し難い品種は特にこの傾向が強く出るのです。このため冬剪定の際は枝の充実度を確認する為の剪定を行います。予定する芽より上部の枝を切り、剪定鋏を通して伝わる手応えで枝の充実度合いを見極めます。カシっとした手応えがあれば充実した枝です。確認してから予定の芽で剪定を行うよう心掛けて下さい。これが安全策です。

 

海外の、特にイギリスは強い剪定を施す事で有名です。これは庭園での表現手段の一種で有り、決してバラの成長を考慮したものでは有りません。その後の生育や開花量に対して好結果をもたらすものでは有りません。人間の都合や考え方でバラに一方的とも言える強い剪定を施す事、このしわ寄せは総てバラの身に降りかかり、また周囲の方々の共感も得られにくいのが現状です。強く剪定を施す事で枝枯を起こす事も否めません。

 

冬剪定で最も悩むことは、どの程度の太さを持つ枝を残し、どの太さの枝を切除の基準とするかの判断です。ハイブリッド ティーは大輪種ですから太い枝のみに剪定を加え細い枝は切除の対象です。枝が堅く締まって成長力の強い品種は強剪定にも耐えうると判断して間違いはありません。程度にもよりますが、ベイサルシュートを地上より 40cm 程度の高さまで切り戻しても差し支え有りません。これが強剪定の最も短い(強い)部類の剪定です。反対に枝の充実が難しい品種ほど剪定位置は高くなります。

 

ベイサルシュートで地上高 60cm 以上が中剪定と呼ばれる剪定の深さで、バラにとっては最適な深さであろうと思います。バラは多少大きく育ちますが開花量は多くなりボリューム感をみても好結果が残せると思います。

 

四季咲きバラのみならずバラ全体に言える事なのですが、花弁数の多い少ないが剪定の強弱の目安になります。一重咲品種ほど萌芽力は強く多少であれば細枝まで開花は起こり、弱剪定~中剪定を施し全体的に枝数を多く残します。反対に大輪の多重弁品種ほど良花を得るためには多くの養分を必要とし、太い枝にみに絞り込む剪定を施します。小枝や弱枝は切除対象です。こうして養分の集中をはかり良花を得るようにします。従って大輪多重弁咲き品種程強い剪定を施すことになります。

四季咲きバラの剪定理論

凋花切(ちょうかきり)

凋花切は春の最初に咲く花(一番花)が咲いて花盛りをすぎてから夏剪定をする時期まで続きます。この時期の花ガラ切りの事を凋花切と呼びます。

 

四季咲バラの欠点は枝が伸びると必ず枝の先端に蕾を付け、枝の生長が止まってしまうところにあります。凋花切は枝の成長を速やかに再開させる為におこないます。枝の伸びにくい四季咲きの品種では花弁の色が茶褐色になるまで放置すると枝の伸びだしまでに時間を要し遅くなるので、凋花切りの本来の意味は枝の柔らかさと充実度合いに起因します。

 

凋化切りのポイントは枝の柔らかさです。バラの枝の特徴は、柔らかい時に剪定すると芽の伸びだすまでの時間が短く、枝が固く充実の度合いを深めるほど剪定してからの芽が伸びだすまでに要する時間は多くなり、伸び出す枝も細くなります。

 

四季咲きバラの欠点である枝の成長が遅いことの原因は開花にあります。花を楽しみながら枝を成長させる。この相反する性質を上手に両立させるために、盛りを過ぎた花は枝の柔らかなうちに切り次の枝を作るのです。

 

一番花の凋花切は二つの重要な意味を持っています。凋花切により残った下の枝で翌冬剪定を行い、凋花切をおこなった部位から新しく伸びた枝で夏剪定をおこないます。次の冬剪定で使う芽を休眠状態のまま保存する作業と夏剪定の枝の出発点を決定する作業を一回の凋花切でおこなわなければなりません。これが一番花の凋花切りで最も難しい部分です。

 

5 枚葉を何枚付けて切るなどと言う単純な理論では片付けられません。5 枚葉を何枚か付けて凋花切りを行えるのはステムの長い品種だけです。ステムが長いからその位の位置で切っても次の冬剪定に使う下の芽に支障は出ないし、夏剪定で使う枝の太さとしても申し分ない部位になるのです。昔はコンテスト用としての需要が多かったため HT で流通していた品種のステムがみな長かったのです。

 

一番花の凋花切は 5 枚葉何枚ではなく、次の冬剪定で使う芽に影響が出ないように切ります。先に次の冬剪定で使う芽を特定し決めます。その芽から 3 つ以上、上に位置する芽が凋花切りを行う場所になります。

 

こうすることで次の冬剪定用に選んだ芽が休眠状態のまま冬まで保存されるのです。これは枝が上向きの場合は枝先から 2 芽か 3 芽が伸長し、それよりは下に位置する芽は休眠状態のままでいるからです。これがステムの短い品種に対しての一番花の凋花切りの方法です。ステムの長い品種は 5 枚葉 3 ~ 4 枚を付けて切ればバッチリです。

ベイサルシュート

ベイサルシュートは地上から 20 ~ 30cm 程度伸びたところで、先端を軽くつまみます。俗にシュートピンチと呼ばれる手法です。ベイサルシュートは自然状態のままではある長さから枝分かれが始まり、ホウキ状に枝分かれします。枝分かれした枝の先端は房咲き状に開花し、養分の分散がおこります。

 

シュートピンチの目的は第一にホウキ状に枝分かれする事を防ぐことに有ります。そのため先端部を指先で摘み取ります。シュートピンチをすると柔らかな先端はすぐ枝の再生を始め、伸び出す芽の勢いも太さも株元からの枝と遜色のない太さで勢い良く伸び出します。やがて先端に蕾を持つこととなるのですが、シュートピンチを行ったベイサルシュートの 2 段目の枝に咲く花は数輪の房咲き状態で開花を迎えます。大きくホウキ状に枝分かれして咲く事が起こらず、養分の分散も少ないのです。

 

このシュートピンチにより、冬剪定や夏剪定で用いる芽の状態が選びやすく剪定し易い状態の枝を作ることが出きます。また株元から発生したベイサルシュートの葉は規則正しく付くのですが、枝分かれが始まると不規則な葉の付き方になり、本来は 5 枚葉であるものが 3 枚葉になったりします。シュートピンチを施すことはベイサルシュートが真直ぐに一本の枝として伸びることにより規則正しい葉の付き方が得られるのです。この規則正しい葉により剪定位置を広範囲に選ぶ事が可能になります。

 

ベイサルシュートが既にホウキ状に枝分かれしてしまった場合は、枝分かれをした枝の中で株元に近い下 2 枝を残し、中心部に有るホウキ状になった枝の全部を切除します。残った枝が Y の字型の姿になります。残した二枝の枝先は軽く剪定し、次の枝を伸ばす事を心掛けます。

 

株元近くの枝分かれしていない枝まで強く切り戻す方法もありますが、強い剪定は芽ののび出しまで多くの時間を必要とし、時として芽の伸張が得られない場合もあります。この為残した二枝の先端部で剪定をして次の枝を作るのです。これで次の冬剪定に用いる芽の確保が可能となります。

 

以上が四季咲きバラのシュートピンチが必要であり効果的である理由です。最近行われ、また奨励する人がいると言うつるバラに行うシュートピンチとは意味合いが異なります。つるバラのシュートピンチは行う理由の論理的背景が未だ私には分からず、また勉強して適当な理由が理解できたらお伝えしようと思います。

 

2 番花以降の凋花切りは枝や葉をより早く伸長させる事が目的です。枝を作るために行う剪定とも考える事ができます。枝を作る事は葉を増やす事であり、株を大きく成長させる事でもあるのです。

 

バラの生長は葉の枚数で決まります。葉の枚数が多ければ光合成を活発に行い成長の度合いは早まり順調に成長を継続することが出来ます。気温の高い時期ほど枝の成長スピードは速まります。しかし枝を成長させるためには蕾の存在が障害となります。蕾の時点で摘蕾する事が成長を促進させるためには最も効果が高いのです。

 

枝を剪定して芽が伸び始めるまでの時間を枝の充実度合いから比較すると、柔らかな枝ほど芽の伸びだすまでの時間が短く、充実した固い枝ほど剪定を施してから芽の伸びだすまでに時間を多く必要とします。シュートピンチに代表されるように手で枝先を簡単に摘めるほど柔らかな枝の場合は、枝が再生されるまでの時間が非常に短く、鋏でなければ枝先を摘めないほど充実すると枝の再生までは多少時間を必要とします。

夏剪定

夏剪定は秋の冷涼な気候のもとでバラの花を鑑賞するために行ないます。花を咲かせる為の剪定です。目的を持ってより意欲的な剪定を施します。夏剪定は平地や暖地では有効な手法ですが、寒冷地や冷涼な高地では夏剪定は行わずに凋花切りを継続します。

 

春の開花時期と比較すると秋花は気温の低下する中で開花が起こります。開花するに従い気温は更に下がり続けるため、花保ちが特に良くなります。また湿度が春とは比較にならぬほど低く、香りが良く出やすい環境が秋の特徴です。この気温や湿度の点で 10 月の中旬過ぎからが開花適期と言え、初霜の頃迄は理想的な開花状況を楽しむ事ができます。春とは逆の気候の元での開花を十二分に楽しむには、秋ギリギリ遅くに満開に至る事が理想です。

平地や温暖地を前提とした夏剪定

四季咲きバラの開花の特徴は、剪定してから何日後に花が咲くかの計算が成り立つことです。秋バラは気温が低下する中で芽を伸ばし枝の再生をし、開花を迎えます。寒くなる先の気温の推移を予測しながらの剪定になります。一年として同じ気候の年はありませんので博打に近い予測を立て剪定に臨みます。

切る時期

秋にバラの花を楽しむ夏剪定は 9 月 1 日を中心とした前後 5 日間の中で剪定を施し、秋の花の準備をします。8 月 25 日から 9 月 5 日までの正味 10 日前後で剪定を施します。

切る枝

夏剪定を施す枝は 1 番花の凋花切により発生した枝、つまり 2 番花の咲いた枝を剪定するのが標準です。2 番枝の長さの丁度真ん中あたりから下の方に位置する状態の良い芽を選んで行ないます。多少内芽で有ってもそっぽを向いていても充実した芽、剪定すれば必ず伸びる芽であることが優先されます。

早咲き・遅咲き・標準咲き

剪定をしてから開花に至るには品種により大きく違いが出ます。一般に遅咲きや早咲きと呼びますが、一番花が 5 月上旬に咲いた品種は早咲き、5 月末頃に咲いた品種は遅咲きです。5 月中頃に咲く品種を標準的な品種として記録しておきます。夏剪定では遅咲き品種から順次剪定を開始します。こうすることで剪定による開花日の調整を行っています。

 

5 月末に咲いた品種は遅咲きですから開花までには多くの時間が必要です。従って剪定日を 8 月 25 日頃に設定し、順次標準~早咲き品種へと剪定を進めます。9 月 1 日は標準咲品種の剪定日。5 月の半ばに咲いた品種はこの日あたりに剪定します。9 月 5 日までには早咲きの品種にも剪定を施し、夏剪定を完了させます。

開花時期を調整する

凋化切りの所で述べたように、開花時期を左右するもう一つの要素が枝の充実度合いです。枝の柔らかな状態、または新しい枝ほど、剪定してから芽が伸びだすまでの時間は短く、枝が固いほど時間を必要とします。この違いだけで開花日に数日から十数日の差が出ます。

 

夏剪定は品種固有の開花サイクルを元に気温の推移を肌で感じながら剪定する日を決め、剪定する枝の充実度合いをハサミの手ごたえで感じ取り、開花日の微調整をします。繰り返しですが一年として同じ気候の年はありません。一ヶ月半から二月先の気温や天候の予測を立てて剪定する日を決めなければならず、上達するには経験則を得る事が最良の方法です。

 

夏剪定が済むと次は冬剪定になります。咲き終わった秋花、これは花ガラ切りを行いましょう。


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