バラ雑考 Vol.2

バラ雑考 Vol.2

ガーデニングブーム初期につるバラを始めた方は試行錯誤の長く辛い道のりであったと思います。好きで始めたからそんなことないよ。と言って頂くと有難いのですが。

 

バラの世界で生きるプロとして最も怖いのが、結果を残せず挫折して脱落してゆく姿を見ることです。バラを愛しバラと共に暮らす日常を夢見ても、現実には様々な問題がたくさん起こります。

 

苗木を販売する以上お客様に結果を残して頂かないと責任は果たせません。村田ばら園のお客様の多くがつるバラの庭を志す方々。この庭が園芸的観点から、樹形や景色を優先するのではなく、花の価値観を優先して植裁した場合、想う庭の風景は得られない。周囲の人も同じ様に見ます。人の心を鷲掴みすること。これがつるバラの庭の極意、結果です。

 

人の心を掴み共感を得る事が結果として自分の励みになり、次への庭造りの原動力となります。現実を起こすには然程難しいことでは有りません。景色を造る能力に優れたつるバラを使うこと。これに尽きます。そして枝先を使いこなすこと。剪定の強弱あるいは施さぬ勇気。

 

柔らかで繊細な枝先の表情が人の心へ訴える能力をもちます。従来の庭の世界に無かった感覚です。アーチやパーゴラ等々の構造物に枝を密着させる誘引方法に固執しないこと。枝は空中に浮かし構造物を優しく包みこむ事。この包みこむ感覚がつるバラの庭の基本です。包みこむのは構造物 ? いいえ人の心なのです。枝先の柔らかな表情を活かすことにより繊細な感性を持つ日本人の心を鷲掴にし、共感を得るのです。構造物に枝を密着させることも必要ですが、こればかりではフツーの庭の景色。アイディアと心の優しさ、人への配慮や包容力を表現するため枝を構造物から離し枝で包み込むのです。だから麻ヒモが必要になるのです。

 

総ての枝をそうするのではなく、あくまでポイントを的確に押さえるのです。構造物に沿う枝と空中に浮き包み込む表情を持つ枝を作ること。枝を操作する段階で心に湧き上がる感情や感覚を頼りに景色を創り上げてゆきます。

 

そして枝先は自由であること。枝は空中に下垂し、大気に揺れながら人の心に話しかける表情を持たせること。これも基本です。麻ヒモで枝の下垂する姿を作るとき、枝先を結わえて形を造るとこの表情は失われます。人の心に違和感と窮屈感と束縛感を生むことになります。気の利かない強引な人と見られます。だから絶対にしてはいけない。

 

枝先の表情を使いこなすには枝の元に近い部分に麻ヒモを結き下垂する姿を造ります。枝のどの部分に力を加えれば柔らかな表情を得る事が出来るか、繰返し挑戦し感覚を掴んで下さい。枝先はあくまで自由奔放で在ること。この表情を造れる人だけが次の庭の世界に入って行けます。次の時代を切り開く能力はこの枝先の柔らかな表情。この使いこなしの美学に潜みます。しかも総ての植物に共通しています。

 

だからつるバラは枝を剪定する対象のバラではなく、今現在ある枝を如何にして使いこなすかと言う対象です。この事は間違えぬよう確認しておく必要が有ります。切るのはいつでもできます。そして一度切った枝は二度と継りません。つるバラの枝先の剪定は誘引演出の済んだ最後に花の咲く枝先の位置を決定するために行ないます。最後の開花演出が剪定であるのです。この事を踏まえてつるバラに向き合い付き合ってください。

 

無論総ての枝先を切る必要も有りません。あらかじめ切っておく枝は決まっていて、前年開花した枝のステム部分、前回の開花枝を剪定して再度の開花を得るための剪定、これは誘引前に済ませる事が多いのです。しかし新たに伸長した枝、一度も開花したことの無い枝ですね、この枝は先端を切らずそのままにして誘引にのぞみます。

 

養分の集中か分散。この開花状況の変化もつるバラの庭の演出面での面白さです。養分の集中を必要とするのは、大輪多重弁咲きのつるバラです。このタイプの品種に関しても剪定を先に施し、それから誘引を行います。理由は既に花を咲かせる枝の太さがあらかじめ分かっているから。養分を集中させないと目的とする開花状況が得られないために枝先の切り戻しを行い適切な太さの部分まで剪定を戻す、切り戻し剪定を行ないます。こうしておかなければ本来の目的である見ごたえのある良質の花が咲く状況を造りえないのです。

 

枝先の切り戻しは品種間で大きく異なります。大輪多重弁咲きは切り戻しが最も強く、また弱枝は切除し、残された枝に養分の集中を計ります。大輪でも弁数が少なくなる程枝先の切り戻し程度は少なく、枝数も多く残す様になります。ピェール ド ロンサールとスパニッシュ ビューティーでは弁数に大きな差があり、前者は枝先の切り戻し程度は強く後者ほど細めの枝先を造る様になります。

 

中輪咲き品種でも弁数と本来の樹形的性質、太枝性であるか細枝性であるかにより、切り戻し程度は異なります。つる ピンク シフォンであれば太枝性だからより大輪つるバラに寄った切り戻し程度、つる サマー スノーであれば、状況により変化しますが、下垂させた枝は無剪定でも優雅で自然な景色を持つ開花状況を得る事ができます。中輪種から前年の開花枝を除く新たに伸びた枝の先端を切らずに誘引を行う様にしています。それだけ枝先の開花状況の演出が可能になって来るという証拠。

 

こんな事書くと苗木が売り切れてお客様に御迷惑をお掛けし申し訳ないのですが、中輪咲きつるバラではつる サマー スノーや春がすみがずば抜けて優れた能力を持っています。枝に刺無く綺麗で葉は濃緑色で密に茂り細枝性。枝先を切らずとも開花し、しかも景色を造る能力に優れている。その次がつる アイス バーグですかね。これは少し大きくなりますが、景色を造る能力は高く非常に優れたつるバラです。

 

小輪つるバラでは皆良い子で景色を造る能力を持ちます。特に一重咲のロサ ムルティフローラ、野バラですね、この品種は景色を整える能力に長け、しかも選抜種には枝に刺が無いものがあり、で非常に優れたつるバラです。実生故のバラツキはありますが、総じて優れ景色に加えたいつるバラです。剪定は施さなくても、どとらでも咲きます。

 

人気品種、イングリッシュローズや新品種等が見受けられないと指摘されても、この庭での汎用性と言うか、使いやすさ。能力を基準に品種を選抜すると人気品種はまず入らない。花の価値観のみで庭造りがスムーズに運んだら、こんな結構な事は有りません。園芸的観点から品種を選び庭造りに臨んだのがガーデニングブームです。結果は判りますね。

 

ですから決してつるバラの花の色香に惑わされてはなりません。貴方が花を咲かせ、その色香で周囲の人々を惑わすのです。魅了するのです。本人も無論結果に満足するでしょうが、貴方はあくまでも庭における仕掛け人なのです。仕掛ける相方には絶対的なパートナーシップが求められます。景色を造る能力を持つつるバラをパートナーとして、相棒として選ぶべきです。信頼に足る戦友としては小輪から中輪に至るつるバラの品種がこの能力を持っています。

 

大輪種と比較しての話ですが。総てのつるバラに庭で素晴らしい景色を造る能力が備わっていると言うことは有りません。庭造りのつるバラは第一にベイサルシュートの伸びる角度と高さ長さを確認し、次に枝の太さの確認。次が葉の表情等。次が花色や花径、ステム長さや開花状況を見極めます。ロゼット咲きでぇ、四季咲きでぇでは庭は作れんのです。優先すべきは一年を通して有意義な庭であること。花は一時期でも樹形が植え付け場所に適合し、一年中観賞に耐えうる姿であること。これが理想です。庭の一員にしてあげたつるバラが皆から浮き上がった状態にならぬよう、配慮が必要です。


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